2013年11月24日日曜日

冬の気配

11月だから今はまだ秋なのよ、という暦主義の私の発言を受けて、もう寒いから冬だと思ってた、と気温主義の男が言った。同じ寒さなら、あたためてもらいたいと思うよりも、あたためてあげたいと思うほうが好きだ。甘えたいと思うより、甘やかしているときが幸せなのと似ている。その考えは私の傷つきやすさと表裏一体だけれども、気づいている人がいるかは知らない。

亡くなった大伯父の本棚を、老人ホームまで引き取りに行った。吉祥寺からの市内循環バスに乗ることももうないだろう。もらった本棚は大きく、いくらでも本が収納できた。マニキュアがはげ、爪がわれ、指先の水分が失われるまで、その日は紙の束を片付け続けた。

フェイシャルのマッサージをまた受けにいった。女は私の顔だけでなく、背中や鎖骨のあたりを触っていくつかコメントしたのちにふと「お母さまもこういう肌理をしているのですか」と言った。えっ、まあ私と同じ年齢のときにどうだったかは知りませんが、顔かたちやしぐさは似ているからどうかしら、と思って、一瞬戸惑ったのち「たぶん」という妙な答えをしてしまった。今回、身体の緊張は少しほぐれていて、少しだけれどベッドでねむった。

夜は近くの喫茶店に行った。とある人がその店にいることを私は知っていて、なので混んだ店に入ってその人の隣に案内されたときにも自然に「こんにちは」と言うことができた。彼はめがねをかけなおして、少し面くらったように私のことを見た。私も前髪をちゃんとかきあげて向き直った。本と音楽とお酒を深く愛する顔をしている人だ、というのがわかった。その喫茶店はテーブルでノートパソコンを広げるような風情の場所ではないので、私は帳面をひらいてシャープペンシルで、最近観た演劇について書いていった。その人も、小さな電子画面にずっと何かを書きつけていた。いくらか話もして、結局閉店まで一緒にいたけれど、この街は坂がなくてどこまでも見渡せるから、彼にもいつかまた会えると思う。

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