2014年4月29日火曜日

30年目の抽出

生まれて初めてコーヒーを豆から挽いた、という私に対し、男は監視を怠った。蒸らしながら煎れるという概念がなかった私の作業(実際今こうして書いている間も「コーヒーを蒸らす」が何なのか分かっていない)が失敗に終わってしまってからそれを見つけ、100秒ほども文句を言ったので、私は心が折れた。自分で飲んでみなさい、まずいでしょ、と言われて飲んだが私にはコーヒーはどれも同じ味なので大して響かなかった。それを言ったら彼は、大胆なところと繊細にすべきところをわかってないという事だ、と今度は人生観にもまつわる大いなる問題提起をおこない、私をさらに逆撫でした。

肝心な時に繊細さを欠き、不要な冒険心を発揮してしまう事ぐらい自分がいちばん分かっているし、他の人は煎れたコーヒーに文句を言われたぐらいでこんなに打ちひしがれないし、こんな日記に書き付けたりもしない。自分の分の紅茶を飲みながら少し泣いたが、初めは悲しかったから泣いていたのが、だんだん、でもこうやって文句言われながら応戦するのはそれだけで建設的だな、と思って、もっと泣きそうになったので考えないようにした。

3秒後、男は少し不満そうにマグカップを口につけながらも、いつものようにへらっとしていた。もう腹も立たないが、私はと言えば3年先まで今日のこの事を忘れないし、そういう自分と付き合う覚悟も出来ている。ただし3年後は、今より上手にコーヒーを煎れているのは間違いない。

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