2014年10月16日木曜日

愛すべき娘たち

母と自由が丘のモンブランに行った。私は甘いものがたくさんは食べられないので小さめのタルトを頼み、母はいつもの通りチョコレートサンデーを選んだ。母はアイスクリームが好きだ。祖母もアイスクリームが好きだった。ふたりの好きなものはそれくらいしか分からない。父や祖父の好き嫌いはよくわかる。彼らはいつも、それを表に出すことをはばからなかったからだ。やって来たタルトは予想通り小さかったが、私は気分が乗らずにほとんど食べられなかった。母は生クリームとチョコレートクリームのかかったバニラアイスを嬉しそうに食べてから、私の残したタルトを少しつついた。それから「あなたが女の子を産むのもいいと思うんだけど」とまた言った。「でもあなたに似た女の子だったら、まわりの男の子たちをみんな従えていばったりしそうね」と、従姉の息子である子どもたちの名前を挙げ、「彼らは弱そうだから」と笑った。

母は帰りの電車のホームで「最近、村上春樹の短編集を読んだの」と言った。私もそれは読んでいたので、私は『ドライブ・マイ・カー』とタイトルは忘れたけどもうひとつ好きなのがあった、と言った。母は少し考えてから「『独立器官』?」と訊き返してきた。それだ、どうしてわかったの、と言うと母は「何だかそうだと思ったのよ」と言った。普段忘れて舐めくさっていたけれど、母と私の近しさを、急に突きつけられたようで少し気持ち悪くなった。そういう形では、近しさを思い知らされたくないと、私の遺伝子が気持ち悪がったのだ。

男は出すものがあっていいなあと、セックスの時はたまに考える。じりじり涙をこぼしてしまうのは私に出せるものがないからで、そのくやしさとかせつなさが涙になって頬を伝うのだ。

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