2015年5月10日日曜日

坂道は百合の匂い

わかっていないと言うのでわかっていると言うとそれがわかっていないということなんだと言いじゃあわからないと言うとわかれよとか何とか言う人が、そんなものただの嫉妬だと言い捨てるし、その人自身は果たしてわかっているのかどうかと言うとそこについては言及しないずるさを見せるので、ひどい私はあなたにひどいことをしたい。

別れたくない、とすがって泣いたことがある。もうあなたみたいな人には出会えない、と本気で思ったのでそのように言った。その時男は私を傷つけるため、そして恐らくは自分を守るため、いいやお前は絶対すぐに別の人間を好きになる、すぐに他の男が現れる、俺にはわかってる、と冷静にいたぶるように言った。そんなことない、と私は一生懸命になおも泣いたが、涙が乾いて10年が経ち、私はあの時の男と同じ年齢を迎えている。

マンションの入口で、夜のうちからごみを出そうとする住人とはちあわせた。女は洗い髪で、シャンプーの香りをさせていた。私はこの世でいちばん、匂いという匂いの中で女のシャンプーの匂いを嫌っていて、どんなに親しくてもシャンプーの香りをさせている女は許せないどころかそもそも親しくなることはないからそんなこと心配しなくてもいい、というほどなので、ひどい嫌悪を催した。エレベータに乗ると生ゴミとシャンプーの混ざった湿った空気が充満していて、今すぐ階段に変えたかったけど身体がもう箱の中に入ってしまっていたので仕方なかった。吐き気と窒息のどっちを取るかで文字通り死にそうになったし、もし私が今妊娠していたら間違いなく、ここで嘔吐していた。

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