2016年3月30日水曜日

彼が言うには

期待してないから誰にでも平等に接しているだけだし
他人のことをちっとも見ていないし
人付き合い下手そうだし
わかってもらえると思ってないから説明しようとしていないし
順序立てて話そうとはするけど順序立てられていないし
持っている演算能力をまったく使えていないし
頭いいとこは好きだけど、それが湧き上がる背景は好きではない

2016年3月18日金曜日

若い生きもの

なんとか着替えまですませてファンデーションを塗っても、そこから家を出られない。せっかく着た服を脱ぎ、立ちすくんでしまう。すべきこと、行くべき場所はあるのに、そうしたくない。もう昼も近いから、差し込む光が強くて白々しい。よく見ると脚があざだらけで、眠っているあいだに打ち付けたのか、それとも誰かと何かしたのだっけ、と思う。
子犬は、私が小型犬に触ろうとしただけで走ってきて、指をかむ。テレビの裏に本物の犬がいると思って吠える。この世に生まれて日が浅く、大気の摩耗を受けていない生きものは、人の人生を明るくする。

2016年3月9日水曜日

白い脚

エレベーターに乗って、鏡に映った自分の顔があまりに白くてぎょっとする、などということが、仕事を辞めて久しい今もまだ、あるのだった。眉も薄くしか引いておらず、頬紅も忘れていたとはいえ、この世のものとは思えないような色だった。ビルの三階の病院に、このごろまた通っているのだ。

待ち合わせた男は、今日は格別に白いね、と訝った。そうね気味がわるいわ、と答えて向かいに座る。そういえばこの前、風呂の中で脚の静脈が青く浮きあがって見えて、怖かったことを思い出した。脚を覆いつくすような静脈のすじに、あの人は気づいていただろうか、それともべつのものに夢中で、気にもとめなかっただろうか。

寂しさは燃えひろがる。