2016年4月1日金曜日

バスタイム・イン・ザ・ダーク

部屋も廊下も浴室も真っ暗にして、湯につかる。窓がある方には背を向ける。電気を消したばかりでは何も見えないが、だんだん目が慣れてくる。暗闇の中で、水の底に沈む自分の体が見える。青白くて、ホルマリンの中の死体のようだ。浴室の扉の向こうから何かが這い寄ってくるような気持ちがする。暗闇をおそれる気持ちなんて久しく忘れていた。思い出して、初めのころは身震いした。今は慣れてずいぶん楽しさがまさっており、最近ではシャンプーも暗闇の中でおこなったりしている。

一睡もできないままベッドにもぐって目を閉じていたところ、閉まっている扉の向こうから赤んぼうの泣く声が聞こえてきて、それがあまりにかなしく寂しいので恐ろしくなった。マンションの隣のベランダで泣いているのかな、と思い込もうとしたけれど、だんだん泣き声が近づいてくるような気がする。扉を見る。絶対にすぐそばにいる。怖い、と思って声を出そうとした瞬間、空気がゆがんで声が吸い込まれるような、無力感をあじわった。怖い怖い、これはまずい、と思ってとにかく叫んだ。実際はひどくうなされて、最初の夫の名を呼んでいたらしかった。後ろから抱きしめられて、大丈夫、大丈夫、と言われるのが聞こえた。それでも体は、というか声は止まらない。意味をなさないうめき声で名を繰り返しながら、ずいぶん長い時間が経ったようだった。次に見たのは昔の友だちの夢で、ここでも、何か置き去りにされるみたいな虚しさだけが残った。タクシーに乗って帰ろうとしたけれど家の場所がわからなくなってしまって、ぜんぜん知らない町の名前を運転手に告げてしまい、車ごと迷子になった。

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