2016年5月19日木曜日

幾度目かの最期

その町の改札口では、昔落としたバラの形のピアスを、今も探してしまう。
Fに呼ばれて、3年ぶりの町へ行った。「今日は何で来てくれたんですか?」と、同席してくれた可愛い後輩が問うてきたので「Fのことが昔から好きだったから」と答えてみると、後輩の隣でFは「だめ、俺と付き合うと不幸になる」とまじめな顔で言った。

もう一人の同僚、Sが遅れてやってきた。彼は「相応のプロジェクトを一緒に進めてきて、信頼できると思っていた同期が辞めるのは、結構堪えるんですわ」とぼやきながらビールのジョッキを干した。だからお前が辞めたって人づてに聞いた時は、結構ショックやったで。俺はたまたま人に恵まれたから続けられてるんかなって。俺も、お前みたいに、うまくいかなくなることあるのかなって、怖くなった。お前にはやりたいことがあるやん、でも俺なんか、仕事辞めたら廃人になってまう。それからSは、最近退職した同期の名前をあげて「辞めんと思ってたやつがとうとう辞めたわ」とまた嘆いた。優しいな、Sの声は低くてやわらかくて、いつまででも聞いていられるな、と私は耳を澄ましていた。

好きだと思っていた人たちのことを、忘れなくても閉じ込めなくても、いいのだと思った。そうしたら、誰にも話せなかったことを少し話す気になった。あとで思い返して、もっと言いたいこと、うまく言えたはずのことがたくさんあった、と反省したとしても。
君には久坂葉子が似合うと思った。あと、山川方夫を読むといいよ、不健康になりそうだけど。次の日、Fからのメッセージにそう書いてあった。

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