2016年5月27日金曜日

ポートレイト

晴れてたらレンズの奥に僕の目が見えるんだけど、と彼は言った。カメラの奥にあるはずの目をあわせながら、ああもう自分が自分じゃなくて何でもやれる気がすると思った。好きだった街が背中を押してくれて、新しいところへ連れて行ってくれたようだ。黒いワンピースが、風を孕んで、舞いあがる。

長らく書けない書けないと思っていたフィクションが、今、するすると自分の内側を流れる。架空の人物に名前を付けて動かすことがまたできるようになった。私は、たしかに言葉を取り戻しつつある。それは同時に、前進でもあるはずだ。失ったものを、寂しく振り返りながら。

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