2016年7月12日火曜日

ある日(海水浴、選挙)

海水浴に行くと決めていて、早起きして、日焼け止めなどの対策を念入りにした。よく晴れそうな一日だった。城崎温泉駅から西へひと駅、竹野というところで降りて、駅で自転車を借りた。

竹野の海に来るのは二度目だ。昨年、水着を持ってこなくて後悔したくらい、透明できれいだったのを覚えていたから、今回楽しみにしていたことのひとつだった。そもそも海に遊びに来たこと自体、ほとんどない。海の家の更衣室をどうやって借りるのか、まるで外国に来たような感じがしたから、Fのあとをついて歩き、適当に海の家を見繕ってもらって入った。ひとり800円払うと休むテーブルを借りることができ、荷物も置いていいし、貴重品も預かってもらえる。更衣室で着替えもできる。海の家の浮き輪を借りて水に入った。水が染みて冷たく這いあがってくるのが怖くて、すぐにどうしよう、帰りたいと思ったが、しばらく浮いていると慣れてきた。浮き輪をはずし、生まれて初めて平泳ぎをした。前に海で泳いだのは、平泳ぎを覚える年よりも小さい頃だったのだ。

海には親子連れが多かった。子どものころから、こうして海に来ることがならいとなっている子は、私のように、海も山もろくに見ずに大人になった人間のことを不思議に思うだろう。でもそれは私だって、同じように君たちのことを不思議に思っているし、そういう人々がいっしょに住んで、選挙で議員を選ぶのが日本という国なんだよ、と浮き輪で浮かびながら考えた。帰りの竹野駅では、40分ほど電車を待った。待っているあいだに寝入ってしまい、気持ちよい時間を過ごした。水から上がったあとは引きずり込まれるように眠くなる。
 
アートセンターの駐輪場でマックス=フィリップに会った。「今日はelection dayなんだ」とFが言うと、マックスは「ああ、選挙があるのは知っていた。今日だったのか!」と驚き、「よい結果になるといいけど、どうだろうか」と尋ねてきた。われわれは「私たちは城崎に来る前に投票をすませてきたから、あとは祈るだけだけど、情勢は厳しいと思う」と答えた。何に対して厳しいのか、ということは、リベラルな舞台芸術関係者であればおよそ共有しているであろう文脈にあえてゆだねた。マックスはうなずいて、それでも "Let's hope good result." と言って、われわれに手を振った。

海から帰って午睡しているうちに、行こうと思っていたお祭りに行きそびれたことがわかった。城崎は祭りのとても多い、感謝と楽しみにあふれた町だ。

夕食は、ソレッラ姉妹のおうちにお呼ばれ。昨年、1歳だった少女は2歳になっており、おなかの中にいた子は外の世界に飛び出してきている。幸せな食卓の向こう側、テレビからはアンパンマンマーチが流れ、選挙速報を見たがっている父親を苦笑させていた。デザートを食べながら、なぜか幽霊の話をいろいろとした。

外湯に入ってバーで飲んで帰る、というFを町中に置いて、ひとりで自転車を引いて歩き、歌いながら帰った。いい時間だった。城崎中学校近くのバス停のベンチに、こんな時間にひとりで座っている老人がいた。きっと人間だったと思うけれど、そういえば城崎に今回来てから、ひとりで道ばたやベンチ、川べりに腰掛けているこの老人を、よく見る。

0 件のコメント:

コメントを投稿