2016年7月20日水曜日

初手天元

どうしても君に会いたいと言ってる人がいるんだけど、と連絡をもらった時、まさかと思った。人の気持ちがそんなに長く続くわけがないと私は甘く見ていたのだった。

彼女は俺より才能も野心もあったんだ。俺のせいだよ。帰りの遅い俺を、毎晩待ってる。眠れないのはあんたのせいだって彼女も言ってる。もちろん今でも大好きだよ。普通に、好きだよ。

その計画は本当にやめた方がいい、と何度も忠告したが、いや構わないんだと言って聞かない。どうにも困って私は煙草に手を伸ばす。ためらうことなく真ん中に石を打ち、たちまち陣地をひろげる人間は実在するのだった。ああ、俺と結婚しなくてよかった。この男が嬉々として望むから、私の人生はこんなに破滅しかかっているんじゃないかという気がする。それなのに私が死んでも通夜には来ないと言う。だって遠いからだよ、と事も無げに答える。いいね、だんだん俺が昔思っていたとおりの君に近づいてる。男はただほほえんで私を鑑賞している。

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