2016年9月4日日曜日

ある日(ブルーベリー)

大きな虫が飛んできて、羽音が怖いので手ぬぐいをエプロンから取り出して振りまわし、追い払おうと努力していたら、マスターが喫茶から出てきて「何踊ってんの」と言った。「パフォーミングアーツだね」と笑っている。マスターは最近疲れていて笑い方が冷たいんだけれど、そこそこ長い付き合いだし、1か月以上も一緒に暮らしていてそのことは分かっているので、寂しいけれど傷つかない。

午前中のうちに、スーパーマーケットに行った。 野菜売り場の向こうで、聞き慣れた声がしたのでひょいと覗くと、麗しのニーナとその息子、制作N嬢の3人だった。「あらやだ奥さん」などと言い合って、別れる。島を歩けば知り合いに当たる、という言葉の意味を肌で感じかけている。ブルーベリーをもらったのでお菓子をつくろうと思い、無塩マーガリン(バターは高いから)とベーキングパウダー、クリームチーズを買った。喫茶の暇を見て、レアチーズケーキとパウンドケーキを焼いた。ケーキは、型がなかったので牛乳パックを切ってホチキスで留め、代用した。エリエス荘のオーブンレンジにケーキを入れ、甘い匂いがしてくるまでニーナとその息子としばらく遊んで、ふたりがお散歩に行くのを見送ってから、焼き上がりを待って喫茶に戻った。

夜はたこやきパーティに、つくったお菓子を持って喫茶のみんなで訊ねた。スイフの飼い主M夫妻や、島に嫁いだアーティストとその家族など、多くの若い人があつまった。優しくてあかるいT夫人の恬淡さ、鷹揚さに、かつてニーナがどれほど救われたかに思いを馳せ、夫人の手料理の数々をいただいた。缶ビールも時間をかけて1本飲んだ。T夫人が犬を3年介護して看取った話や、甘えん坊のスイフの話、M夫妻にもうすぐ生まれる赤ちゃんの話などをした。島で結婚して子どもを産むことについて、私も想像せざるをえなかったけれど、想像の限界というものは何にでもあって、だいたいの時間は黙ってじっと考えていた。大勢が「一堂に会する」感じは、身体同士の距離感がとても近くて、「盆に兄弟がみんな帰ってきとるみたいやな」とT氏が言うのを新鮮に理解した。小さい子どもが何人もいて、昔、両親とその友だちがあつまって、幼稚園も学校も違う私たち子どもがみんなでぎこちなく遊んでいたのもこんな感じだったな、と思い出していた。昔を思い出すだけでなく、未来のことを考えられるようになったのは、やっと最近のことなので。

帰り道、星空を見上げながら、君はとても防御力の低い人間だから、一緒に戦う人ではなく、戦う君を守ってくれる人とチームを組まないと持続可能に機能しない、と人に言われたことを思い出していた。守ってくれる人から同時に傷をつけられる時はどうしたらいいか訊ねたら、それは茨の道すぎる、という返事が来たので、どうしたものかそろそろ考え始めないといけない。

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